とある父親の告白

これはぼくがまだ小学生だったころの話だ。

今となってはこの事件について触れるものはいない。ネットで調べても自分の記憶が間違っているのではないかと思うほど情報がない。当時は各テレビ局の報道番組で取り上げられていたにも関わらず、まるで初めから何もなかったかのように全く事件の情報が残っていないのだ。

そこでぼくはここにその事件について自分の記憶からあのとき体験した出来事についてなるべく詳細に記述しよ

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塾の先生

塾の先生が死んだ。

中学校の時に塾の先生が死んだ。一つのビルを丸々買い取って、真ん中に一本エレベーターを通らせた7階建ての塾。そのエレベーターの中で先生は死んだ、心臓発作だったらしい。彼は100キロはあろうかという体で、だから、バスに乗り遅れそうになっても決して走らないと言っていた。声は高くて、数学の先生だった彼。

黄色のチョークを好んで使うので、後ろの席に行くと字が見難く、私はいつも一番前の

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化粧

幼いころ、母にたしなめられるのが好きだった

わざとしわくちゃな服を着たり
すすんで泥まみれになって遊んでいると母はやってきて
わたしの肩を、つかむというより包みこんで、動けなくさせた

ほんとうの近くにいる時にだけする母の匂い
ほそくて力強い指
みつめる瞳の、底の知れなさ

ほら、お口とじて?

お口とじて、大好きだった
言われてから気づいたの、そういう風に口を結ぶ
澄まして姿勢を正して

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最悪な寝相【短編小説】

「つまり、寝相がとても悪いからそれを治して欲しい… と」
白衣の男がカルテを片手にそう問うた。
「はい」
「しかし君ね、人間寝ている間多少は動くものなのですよ。寝返りが多いくらいの方が健康ってなもんですよ」
「いえ、寝返りとかそういう可愛い問題じゃあないのですよ。起きたら全く知らない場所にいる、というような事が度々あって……」
「ほう、では夢遊病というやつでしょうな」
「そういうわけでもないんです

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自分の「声」は聴こえている?

とあるライフストーリーを読んでいて、目に止まった一節があった。

「一番難しかったのは、自分自身と正直に対話することでした」

言うなれば、そのようなこと。

自分自身との対話。

よくマンガなどで、天使の自分と悪魔の自分が脳内で戦うシーンがある。

ダイエット中だけど、おいしそうなものを食べたい…。

「食べてはだめよ!」「いいや、食べちゃえ!」

あれが一番わかりやすいかもしれない。

日々を

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ありがとうございます!今後ともよろしくお願いいたします!
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これまでの自分にサヨナラ

金曜の夜、某駅前。

疲れたサラリーマンが若いストリートミュージシャンの前で足を止めた。

二十歳前後と思われるそのミュージシャンは、技術は拙いながらも、溢れ出る思いを周囲の空間に放出していた。サラリーマンはしばらく聞き入っていた。

歌う姿、または歌詞の内容にでも何か思うところがあったのだろう、先程まで死んでいたサラリーマンの目が輝き出した。

サラリーマンは、忘れていたものを思い出したかのよう

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薄い顔

ボクが
F-1レースに
参加している時

ボクも
周りも速すぎて
もう何周目か
わからなくなった。

あと何周でゴールかも
わからなくなった。

-

そんな時
ボクらF-1よりも
とてつもなく
速いものが
ボクを追い越して
いった

すうううーーーーん

-

それは
ひらべったくて
大きい
黒い犬の顔だった。

すうううーーーーん

-

こんなの
今までで初めてだ。

ボクは
勝ち負けが

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誰でも40分でショートショートを書けるって本当?

本日、紹介する本はこちらです。

本のタイトル通り、本に記載されている手順通りに行えば小学校低学年~中学年程度の学力があれば、多くても60分程度で1つのショートショートは作ることが可能だと思います。

なので、学校の課題などで短編小説の提出を求められ、何を書いたらいいかがわからずに途方に暮れているような学生さんにはおすすめできる内容かもしれません。

本の内容は非常に簡潔なこともあり要約すると、ネ

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不安定な色彩

仕事が終わり、最寄駅に着いた吉川はバスに乗車する。ちらほらと乗員はいるが、席は空いている。一番奥の座席には誰もいなかったのでそこへ腰を落ち着かせた。
 疲労感のある体を預けるべく、窓に身を寄せたらガラスに頭皮の油の跡が髪でなぞられたように付いているのを発見し、吉川は思わず眉を顰めた。放射線状に描かれた汚い跡にぎらついた頭皮を構うことなく窓に寄り掛け眠る乗客の姿をその目で見たようで、想像ではあるがあ

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火曜日の6時57分

起き上がることは義務で
当たり前のように冷蔵庫に顔を突っ込み
感情が蠢くことにすら気怠くなる相手に弁当をつくり
いつのまにか好きなヒールは捨てていた

今日は帰りが早いだとか遅いだとか
私のなんかがどうたらこうたら
いつのまにか好きなリップは埃まみれ

誕生日なんてただの週末で
結婚記念日なんて口喧嘩パーティで
感情の命日は祝賀ムード

今日も今日とて冷蔵庫に顔を突っ込み
自己満足の感想も来ない弁

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